令和5年(ワ)第70445号 特許権に基づく差止等請求事件(令和8年3月18日判決言渡)

東京地方裁判所民事第29部(裁判長裁判官:澁谷勝海)

[本判決のポイント]

・クレームの用語解釈において、明細書中の記載を根拠として、この用語の通常の解釈からでは包含されないと認められるような態様まで含ませる拡大解釈を行う場合でも、その態様の十分な開示がない場合には、そのような拡大解釈を行うことは困難である。

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1.概要

原告:㈱流通サービス(特許権者)

被告:㈱田頭茶店

内容:原告が、被告製品は本件特許を侵害しているとしてその差止等を求めた訴訟

2.本件特許(特許第6778931号)

《本件特許》

発明の名称:「γ-アミノ酪酸含量の高い茶の製造方法」

【請求項1】

 茶の木の新芽の育成期間に日光を遮って育成した茶葉を嫌気処理した後、好気処理する操作を交互に繰り返した後、嫌気処理を行った前記茶葉を原料として碾茶又は抹茶又は玉露に製造することを特徴とするγ-アミノ酪酸含量の高い茶の製造方法。

3.経緯概略

  • 本件原告により、本件被告の製品(被告製品:GABA茶)の製造方法は本件特許を侵害しているとして、その製品の製造・販売差止等を求める訴訟提起

4.判決の内容(構成要件Bの構成要件充足性についての判断概略)

 本件特許の「嫌気処理した後、好気処理する操作を交互に繰り返した後」(構成要件B)における「交互」とは、種類の違うものが互いに入れ替わることを意味するものであり、ここでは嫌気処理と好気処理が互いに入れ替わることを意味すると解すべきことになる。また、ここでの「操作」とは、上記した一連の操作を意味するものであり、交互に繰り返すことの対象が当該操作であることはその文言上明らかであるといえるから、これを繰り返すということは、嫌気処理及び好気処理をした後、更に引き続いて嫌気処理及び好気処理を行うことを意味するものといえる。

 また、本件明細書(実施例など)の記載を見ても、上記した一連の操作の繰り返しを明らかにしている。そして、段落0020では、少なくとも嫌気処理及び好気処理を各1回行うだけの場合は「繰り返し」に当たらないことを明らかにしているといえる。なお、この記載を根拠として本件特許が繰り返し操作をしなくてもよいと解釈することは、本件発明が明確に一連の操作を繰り返し行うことを規定していることから記載要件の疑義がないとはいえない。

 そうすると、構成要件Bでは、嫌気処理及び好気処理を各1回することでは足りず、これに加えて、引き続き嫌気処理及び好気処理という一連の操作を行うことを要請するものと解するのが相当である。

 さらに、「好気処理」については、本件明細書の記載やそこに示された先行技術文献の開示から、茶葉を酸素が存在する状態で10分から3時間静置することを意味すると解するのが相当である。また、嫌気処理及び好気処理については、茶葉を蒸す作業以前の段階において行われるものを指すと解するのが相当である。

 被告製品の製造方法は、嫌気処理を行い8時間静置した後、蒸熱、散茶、碾茶炉での乾燥工程を経て、仕上げ加工の工程が行われており、原告が嫌気処理と主張する窒素ガス充填は蒸熱よりも後に行われていることが認められる。そうすると、被告製品の製造方法は嫌気処理が1回のみであるから、構成要件Bを充足するとは認められない。また、被告製品の製造方法には、茶葉を蒸す作業以前の段階において好気処理に相当する工程があるとも認められない。

5.考察及び実務上の留意点

 本訴訟では、被告製品の製造方法が本件特許の構成要件B(「嫌気処理した後、好気処理する操作を交互に繰り返した後」)を充足しているか、具体的には、(1)構成要件Bが嫌気処理及び好気処理を各1回行う態様を含むか否か、(2)被告製品の製造方法がこの好気処理を行っているか否かが問題となった。

 まず、(1)について、本訴訟では、構成要件Bは嫌気処理及び好気処理を各1回することでは足りないと判断された。本件特許の実施例では、嫌気処理3~4時間及び好気処理1時間の操作を繰り返して各2回行う態様が具体的に開示され、他の態様でγ-アミノ酪酸含量の高い茶を製造したことは示されていない。なお、原告が主張するように、本件明細書の段落0020では「上記実施例においては、茶葉(生葉)を嫌気的な環境下で処理した後、好気的な環境下で処理し、また、嫌気的な環境下で処理した後、好気的な環境下で処理して、嫌気と好気を繰り返したが、嫌気と好気の繰り返し回数は、茶葉(生葉)の特性により任意に決定される。本願発明にあっては、繰り返さなくても、少なくとも、茶葉(生葉)を嫌気的な環境下で処理した後、好気的な環境下で処理すれば良い。」と記載されている。しかしながら、これは本判決でも指摘されているように、下線部の記載から嫌気処理及び好気処理を各1回することは繰り返し操作でないことを説明していると解釈できる。

 以上から、本判決の判断は妥当であり、本件特許に嫌気処理及び好気処理を各1回行う態様を包含させるのであれば、構成要件Bにおいて「繰り返し」の用語を用いるのは適切でなかったと考えられる。あわせて、この操作が嫌気処理→好気処理の順で行われることは構成要件Bの前段で明らかであるため、「交互」の用語も不要であったと考えられる。つまり、構成要件Bは『嫌気処理した後、好気処理する操作を行った後』と規定すべきであったと考えられる。但し、本判決でも指摘されているように、このように規定した場合、本件特許の実施例からでは記載要件(サポート要件)の疑義が生じるため、少なくとも、嫌気処理及び好気処理を各1回行う態様でもγ-アミノ酪酸含量の高い茶が得られるという推定メカニズムの記載があわせて必要だったと考えられる。

 また、(2)について、本訴訟では、被告製品の製造方法は嫌気処理後(蒸し前)に計量、切り葉除去工程(最短で5分程度)を行っているが、これは上記した構成要件Bの好気処理ではなく、被告製品の製造方法では構成要件Bの好気処理を行っていないと判断された。本件特許では、その実施例などにおいて好気処理を1時間程度行うことは記載されているものの、その好ましい処理時間の範囲などについて具体的な記載はない。好気処理での作用効果や推定メカニズムなども含めて記載不足は否めないと言え、上記先行技術文献の開示も踏まえると、被告製品の製造方法における嫌気処理後の上記工程が本件特許の好気処理ではないと判断されてもやむを得ないと考えられる。よって、実施例データが少なく権利化段階では有効となりにくいと考えられる場合であっても、製法の発明における各工程の条件(温度、時間など)の範囲やその工程における作用効果は明細書中にできるだけ具体的な記載をしておくことが望ましいと考えられる。また、可能な範囲で、その条件での推定メカニズムの記載もしておくとより望ましい。
                           (2026.5.11 弁理士・水野基樹)

※本記事は裁判例の情報を提供するものであり,法律上の助言を含むものではありません。
※本記事に記載した内容は必ずしも当事務所の公式見解ではありません。

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